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2021年2月25日

IDW 2020

福嶋 政期(東京大学)

 IDW2020(International Display Workshops)は12月9日から12月11日まで
の3日間に渡り,オンラインで開催された.他の国際会議と同様に今年は初のオン
ライン開催であった.Zoomのビデオウェビナーによる口頭発表とGuildedというチ
ャットアプリによる質疑応答を併用する形式だった.Plenary Sessionは,Koji
Mitani氏 (NHK)が「The Evolution of Media Services with Diversifying
Viewing Styles -Diverse Vision: the Future of Media-」というタイトル
で,Kazumasa Nomoto氏 (Sony)が「Toward “KANDO” Creation with
Immersive Visual Expression」というタイトルで,Steven Paul DenBaars
氏(University of California, Santa Barbara)が「High Efficient GaN
Based Micro LEDs for High Resolution Micro LED Displays」というタイト
ルで講演された.また,Special TalkではYoichi Ochiai氏 (University of
Tsukuba)が「xDiversity Platform: Audio-Visual-Tactile Communication
Technologies with AI-tools Towards an Inclusive Society」というタイト
ルで講演された.Best Paper Awardは16件で,Outstanding Poster Paper
Awardは7件であった.詳細はこちらのページを参照されたい
https://www.idw.or.jp/award.html).

 今年度のSpecial Topic of Interestは,「AR/VR and Hyper Reality」
「Automotive Displays」「Micro/Mini LEDs」「Quantum Dot
Technologies」の4つである.ディスプレイの要素技術に関する研究発表からユー
ザーの知覚心理に関する研究発表まで,ディスプレイに関する多岐の研究発表があ
った.ディスプレイ技術に関して幅広くサーベイしたい研究者には特におすすめし
たい国際会議である.ここでは「AR/VR and Hyper Reality」のカテゴリから筆
者が興味深いと感じた発表を2つ紹介する.

 1件目は,「Arbitrary Focusing based on Nano-Second Multi-Exposure
and TAG Lens」というタイトルの招待発表である.これはDisplay and
Recognitionセッションでの発表である.この発表は,複数の焦点距離の画像を光
学的に同時に撮影する技術に関するものである.一般的に,複数の焦点距離の画像
を撮影する場合は,カメラの焦点距離をかえて複数回撮影する必要がある.これに
対し,この技術では焦点距離を高速に制御可能な液体レンズと多重露光が可能な
Multi-Tap Lock-in Pixel Image Sensorという撮像素子を使う.液体レンズを
数十KHzで振動させ,この振動に合わせて多重露光することで,単一フレーム内で
複数の焦点距離の画像を同時に得ることができる.非常に短い時間の露光なので得
られる画像が暗くなってしまうが,それに対する対処法も提案されており,興味深
い技術提案であった.

 2件目は,「Living Images: Images Supported by Living Things」と
「Plant and animal display」というタイトルの招待発表である.両者とも
「Media Art」のセッションでの発表であった.筆者もこのセッションで
「Activating Environments and Minds with Displays」というタイトルで講
演した.2つの発表は,生物や植物と技術を掛け合わせて新しいディスプレイを創
出するものであり,従来のピクセルで重要とされてきた空間解像度や時間解像度と
いった基準とは異なる価値観を持つ.例えば,前者の発表で紹介された
chromatophonyという作品では,生物の細胞をディスプレイとして利用する.具体
的には,体色変化をする生物が持つ色素胞の集合を電気刺激することで視覚表現を
生成する.また音響に合わせてこの色素胞を刺激することで,生物による視覚表現
と人工的な音響表現を統合する.ピクセルの持つ安定性や高速応答とは異なる基準
で作られた表現を体験できるものであった.

 IDWは,ディスプレイ技術に関して幅広い視点から各ジャンルの最新の研究動向
を知ることができる.ディスプレイ技術を網羅的にサーベイしたい研究者にはおす
すめの国際会議である.著者も来年度もぜひ参加してみたいと思う.

https://www.idw.or.jp/

Category: 学会参加報告