HOME » 学会参加報告 » VRST2022
2023年1月26日

VRST2022

大槻麻衣(産業技術総合研究所)

 ACM主催のVRに関する国際会議であるVRST (ACM Symposium on The Virtual Reality Software and Technology) は11月29日~12月2日の3日間,つくば国際会議場にて開催され,35件の論文発表 (Full 31件,Short 4件,採択率26.7%) の他,ポスター発表36件,デモ発表13件が実施された.参加者数は計191人で,約半分の99名が現地参加であった.
基調講演1件目はシカゴ大のPedro Lopes教授による「Integrating interactive devices with the user’s body」で,電気的筋肉刺激(EMS)によって,機械式よりも小型でシンプルなデバイスで,重量物を持ち上げた感覚や跳ね飛ばした感覚,車のハンドルを握る感覚など,様々な感覚を生成する事例を紹介した.さらに,当該デバイスを楽器演奏などのスキル習得に応用したり,感覚提示のタイミングを様々に変更し「デバイスに動かされている」のではなく「自分が行っている」と感じられる閾値を調査した事例が紹介された (https://lab.plopes.org/).
2件目は,日本最大のメタバースプラットフォームで知られるCluster社CEO加藤氏の講演で,実際にClusterのワールド内で講演が行われ,ユーザが存分に創造性を発揮できるプラットフォームづくりの重要性が述べられた.3件目は,横浜で開催されていたICAT2022との連携講演で,ライゾマティクス社の真鍋代表による講演であった.リオオリンピックでの閉会式やPerfumeライブの演出,フェンシング剣先の軌跡をARで可視化したプロジェクトなどの舞台裏が紹介され,様々なテクノロジーが,美しく魅力的な映像へとつながっていくのが印象的であった.
Best PaperにはドイツLMU Munichの「Walk This Beam: Impact of Different Balance Assistance Strategies and Height Exposure on Performance and Physiological Arousal in VR」が選ばれた.当該研究では,怪我の防止やリハビリのための歩行訓練VRシステムを開発し,タスク内容やユーザが観察する環境の違いが,訓練結果にどのような影響を及ぼすかを生体データも含めて定量的に調査した.Honorable mentionは米国テキサス大の「Standing Balance Improvement Using Vibrotactile Feedback in Virtual Reality」で,立位時のバランスを向上させるVR訓練システムを開発し,HMD,腕,胴体に取り付けた振動子マトリクスによる情報提示による効果の違いを評価した.VRST 2022の予稿集はACM Digital Libraryに掲載されており,全件オープンアクセスとなっているのでぜひ参照されたい (https://dl.acm.org/doi/proceedings/10.1145/3562939).
次回のVRST2023はニュージーランド,クライストチャーチのカンタベリー大学にて10月9日~11日に開催される予定である.同時期にISMAR,SUIがシドニーで開催されるとのことで,ぜひそれらの会議とも合わせて参加してほしい,とアナウンスされた.
最後に,筆者は丁度10年前に本誌でVRST 2012の参加報告を寄稿した.当時はポスター発表での参加であったが,今回は口頭発表で参加することができた.10年この分野に居続けられたことは,間違いなく,一緒に研究してきて下さった皆様,議論して下さった多数の皆様のおかげである.この場を借りてお礼申し上げます.

公式サイト:https://vrst.acm.org/vrst2022/

 

Category: 学会参加報告