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2021年4月26日

インタラクション 2021

五十嵐 郁瑛(立命館大学)
 インタラクション2021( https://www.interaction-ipsj.org/2021/ )は,2021年3
月10日から3月12日にかけて3日間開催された.本シンポジウムは1997 年より毎年開
催され,今年で 25 回目の開催となる.当所,東京・学術総合センター内一橋講堂
での開催が計画されていたが,新型コロナウイルス第2波感染拡大の影響により,昨
年8月,オンライン開催と現地開催を併せたハイブリッド開催の予定に変更された.
しかしながら,新型コロナウイルス第3波感染拡大の影響や,緊急事態宣言が首都圏
等に発令されたことによる各所の対応に鑑み,最終的に昨年に引き続き完全オンラ
インでの開催となった.今年は541人が参加した.
 本シンポジウムは,「基調講演」,査読を経て採否が決定される「登壇発表」,
実機デモを行いながらの「インタラクティブ発表(デモ)」,および参加者との活
発な議論を目的とした「インタラクティブ発表(ポスター)」から構成され,発表
は3日間にかけて行われた.登壇発表では22本の投稿があり,11本が採択された.ま
た,インタラクティブ発表ではデモが118件,ポスター発表が57あり,全体の約18%
に当たる31件がPC委員会によるスクリーニングを経てプレミアム発表に選抜された.
 発表は全てZoom上で行われ,【講演会場】【インタラクティブ会場(午前)】【
インタラクティブ会場(午後)】の3つの会場での発表が行われた.【インタラクテ
ィブ会場】では,各発表にそれぞれ一つのブレイクアウトルーム(小会議室)が割
り当てられ,発表者は各部屋でそこにアクセスした聴講者に対して発表・説明を行
う.今年は新たに発表の際に発表資料の共有やコメント受け付け等にScrapboxが使
用され,Zoom上での討論に加えて,文字上での活発な議論が交わされた.さらに各
発表時にはリアルタイムでYouTubeでのLive配信が行われた.インタラクティブ発表
に関しては,Live配信は午前・午後ともにA・Bの2つのパートに分かれ,それぞれの
発表ごとに5分ずつPC委員会による巡回中継での紹介が同時並行で行われた.昨年と
引き続きのオンライン開催ではあったが,今年も大きな問題・混乱も生じず,円滑
に遂行されたこと,事前に万全な準備をしてくださった実行委員会の先生方には感
謝の念を堪えない.
 「登壇発表」では,NTTの赤堀 渉氏らの「在宅勤務が職場の関係性及びメンタル
ヘルスに及ぼす影響」と,奈良先端大の中岡 黎氏らの「eat2pic: 食事と描画の相
互作用を用いた健康的な食生活を促すナッジシステム」の2件が論文賞を受賞した.
「インタラクティブ発表」では,参加者の投票により計7件のインタラクティブ発表
賞(一般投票)と,発表当日にチーフプログラム委員団の巡回審査を経て選出され
たインタラクティブ発表賞(PC推薦)が計8件選出された.
 2日目の「基調講演」では,今年は大阪大学大学院情報科学研究科准教授の前川卓
也氏が登壇し,「AI on Animals: 行動認識技術とバイオロギングの融合による野生
動物観測」との題で,野鳥にセンサデバイスを直接装着して行動観測を実現する,
バイオロギングについての発表をしていただいた.国際誌や国際会議で活躍なされ
ている前川氏の発表内容には,目を見開くものが多く,他の生物学者の方々との共
同研究の様子や,実際の計測結果からの分析方法など,その研究スタイルは大変参
考になるものであった.そしてその日の夜には,オンラインでの懇親会が行われ,
発表者と聴講者との意見交換が活発に行われていた.
 また今年は新しい取り組みとして,小中高生に対して「オンラインで見てみよう、
聞いてみよう、言ってみよう」と題したインタラクティブ発表のオンライン中継が
行われた.さらに各日の夕方には質問タイムが設けられ,東京工業大学の長谷川先
生の研究室が開発した「Binaural Meet」を利用して,研究者と小中高生との交流が
図られた.
 筆者は昨年と今年に発表者として参加したが,その所感を以下に記したい.オン
ラインで開催される学会の特筆すべき長所は,何と言っても遠方にいても気軽に学
会に参加することができる点にあると思う.さらに今年は,昨年よりも自分好みの
スタイルで気軽に発表者の発表を聞いて回れるようになり,よりシンポジウムを楽
しめるものとなっていた.例えば自身が気になる発表にはZoomの各ブレイクアウト
ルームに足を運び,積極的に発表者の話を聞きに行くこともできれば,Youtubeの中
継を通して,発表内容を網羅的に知ることもできる.特にこのように網羅的に発表
を聞くことができるのは,PC委員の方々が5分毎にブースを移動し,質問や意見交換
をしていただけたことによるものであり,これは現地開催ではなかなか難しかった
ことであろう.
 しかしながら短所ももちろんある.インタラクションは,デモ展示が特徴のシン
ポジウムで,デモによる発表や体験に興味を抱き参加する発表者や参加者が非常に
多いのが特徴である.これは直前までハイブリッド開催を企画していたことからも
窺えることであろう.つまりデモ展示で実際に体験した上で,研究の今後の進展を
議論する場に重きが置かれていたのである.しかしオンライン開催では物理的なデ
モ体験は難しく,どうしても聴講者は自身の脳内でシミュレートされた擬似的な体
験を基に憶測した発言をすることになり,何処か表層的な議論になってしまいやす
い.私の発表においても,発表後に「実際にデモ体験をしてみたかった」との声を
多数いただき,その機会を提示できなかったことは残念であった.この物理的な体
験をいかに参加者にわかりやすく提示できるかが,今後インタラクションに限らず,
オンライン学会に残された工夫の余地であるように思う.
 来年の「インタラクション2022」は,東京・学術総合センター内一橋講堂におい
て,例年より早い2月28日から3月2日の日程で行われる予定である.新型コロナウイ
ルスの広がりは依然として予断を許さず,先行きは不透明なままであるが,来年の
インタラクション2022は無事に現地でデモ展示・発表ができることを,願ってやま
ない.

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