インタラクション 2020
中條 麟太郎(Rintaro Chujo)(東京大学教養学部一年)
私は東京大学の教養学部一年生で,今回の「インタラクション2020」が初めての学会発表の機会であった.当初は一つのアイデアに過ぎなかった研究テーマについて,先行研究の調査やチームでのディスカッションによって論点が整理されるという経験や,適切なユーザスタディや実験を実施する必要性,また論文における厳密な論理構成の必要性など,様々なことを研究活動から学ぶことができた.当初はデモとポスターを利用した,会場での発表を想定して準備しており,初めての学会・シンポジウムの参加を非常に心待ちにする一方で,緊張も感じていたが,新型コロナウイルスの影響で大きく方向転換を強いられることとなった.私たちの発表については後述するとして,まずシンポジウムの概要から書き始めたい.
本シンポジウムは3月9日から11日の3日間にわたり,東京・学術総合センター内一橋講堂にて情報処理学会主催のシンポジウムとして開催される予定であったが,新型コロナウイルスの影響で現地での開催が取りやめられ,全面的にZOOM上での開催となった.完全オンライン化という決断をされ,かつシンポジウムの円滑な運営のために尽力いただいた実行委員会の皆様に感謝を申し上げたい.本シンポジウムは,計算機科学から人文科学に至るまでの様々な分野の研究者・実務者が,インタラクションに関する最新の知見や情報を交換し,議論する場となっており,1997年より毎年開催されている.今年は574名が参加した.
本シンポジウムは,査読プロセスを経て採否が決定する登壇発表と,発表者と参加者の議論を目的としたインタラクティブ発表から構成されている.登壇発表には40本の投稿があり,その中から20本が採択された.採択率は50%であった.インタラクティブ発表には224本の投稿があり,スクリーニングを経て,特に優れた発表であるプレミアム発表36本と一般発表187本が採択された.シンポジウムは3日間にわたり,通常開催時と同じタイムスケジュールで実施された.毎日午前と夕方に,ZOOMに開設された講堂で登壇発表が,昼からの2時間に複数のZOOM会議室にて,インタラクティブ発表がパラレルに行われた.
全面オンライン開催でありながら,目立った混乱が全く見られず,むしろ活発な質疑応答,議論が展開されていたことは,紛うことなき事実であり,一発表者としても,実行委員会の先生方には敬服の至りである.全面オンライン化の告知は開催10日前という直前であったが,実行委員会がすべてのZOOM会議室を一括で開設したこと,詳細な発表の手引きを作成したこと,またZOOM APIを活用し,アクティブな会議室を一覧できるページを作成したことなど,迅速かつ的確なオンライン開催の準備されていた.
2日目の夜には懇親会までもがZOOM上で開催され,活発な意見交換が実現していたことが,非常に印象的であった.また,インタラクティブ発表では,巡回して質疑応答を行うCP委員と共に,多くの参加者がオンライン会議室を移動する様子が見られた.委員と発表者の議論を傾聴することが目的であると考えられるが,これは会場では起こり得ないことであった.
一方で,例年と比較して視聴者が少ないという指摘も見受けられた.オンライン会議室では「立ち見」が困難であるために,会議室に入るまでの心的ハードルが高いと考えられる.パラレルな会議室で行われるオンライン学会にはまだ工夫の余地が残されているだろう.
私たちの論文「音声入力テキストチャットにおける発話強度に基づいた吹き出し形状自動選択システムの提案」は,インタラクティブ発表(プレミアム)に採択され,東大の会議室から発表を行った.メンバーの大半が,私と同じく学部一年生であり,シンポジウムでの発表は初めてであったことに加え,プレミアム発表で採択していただいたこともあり,重圧と緊張を感じていた.さらに,直前のオンライン開催への移行も重なり,iOSアプリからwebアプリへのデモの移植やZOOMのセットアップなど,厳しいスケジュールの中での準備となった.準備・発表ともに戸惑うことも多くあったが,(数分間,ミュートのまま説明をしてしまい,チャットでご指摘いただくというハプニングもあった.)多くの方に参加いただき,有意義な意見交換ができたことを大変ありがたく思う.
登壇発表では,渡邉先生(北大),寺田先生(神戸大)による「ウェアラブルコンピューティングにおける聴力自在化技術の提案」が論文賞を受賞された.インタラクティブ発表では,参加者の投票により毎日3件,計9件のインタラクティブ発表賞(一般投票)と,チーフプログラム委員の審査に基づいて選出される7件のインタラクティブ発表賞(PC推薦)が選出された.いずれもyoutubeに発表が投稿されているため,関心のある方はご確認いただきたい.
基調講演では,VRゲーム「TETRIS EFFECT」や,作品「Synesthesia X1」などの開発者として知られる,エンハンス代表取締役の水口哲也様が登壇し,「共感覚的インタラクションの時代に向けて」と題してXR技術がもたらす新たなインタラクションの形態について議論を行った.人間の感情・感覚に対する,水口様の非常に深い考察をもとにした議論は,オンライン上でありながら,非常に活発なものとなった.
最終日には来年2月に横浜・パシフィコ横浜ノースで開催される,「CHI2021」が紹介された.初めて日本で開催される「CHI」に向けて,発表者としてはもちろん,Student Volunteerなど様々な関わり方があることや,「CHI2021」からは新しい査読プロセスとなることが案内された.
来年の「インタラクション2021」は,今年度の予定会場と同じ東京・学術総合センター内一橋講堂において,3月10日から12日の日程で行われる予定である.オンライン開催となった本年の経験を踏まえて実施される,来年の「インタラクション2021」が今から楽しみである.