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2022年5月31日

CHI 2022

中野 萌士(奈良先端科学技術大学院大学)

 2022年4月30日から5月5日までの6日間にわたり,The 2022 ACM Virtual CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’22)が開催された.CHIはHuman Computer Interaction (HCI) 分野の国際的なトップカンファレンスの1つである.
 COVID-19の影響によって一昨年は開催が見送られ,昨年はオンラインのみの開催となっていたが,今年で39回目のCHI ’22はアメリカのルイジアナ州ニューオリンズの現地会場とオンラインのハイブリット形式にて開催された.現地参加者はCOVID-19ワクチン接種と会場でのマスク着用が義務付けられていた.現地参加人数は1930人,オンライン参加人数は1926人であり,ほぼ同数の参加人数であった.COVID-19の脅威は完全に収まってはいないが, HCI分野での現地参加の重要性と意欲が伺える.
今年はペーパトラックで2579件中637件の採択(採択率24.6%)であった.投稿数は昨年と比較して265件,10%程度の減少となったが,採択率は1.7%低下している.Late Braking Workは722件中258件(35.7%)が採択された.
 CHI ’22のオンライン会議はHubb社提供のWebプラットフォームを用いて行われた.オンライン参加者は事前にアップロードされたプレゼンテーション動画やポスターを確認でき,質問はSlidoやDiscordを使用して行う事ができた.口頭発表やワークショップは,オンラインと現地会場はZoomを用いて接続された.一方,ポスター発表やデモでのオンライン参加者は上記のプラットフォーム以外では接続されなかった.しかしながら,現地では,COVID-19以前の会議のように交流および体験可能で,大いに盛り上がっていた.
 現地で体験可能だったデモの中から,審査員が選ぶBest Demo Awardを受賞した「QuadStretch: A Forearm-wearable Multi-dimensional Skin Stretch Display for Immersive VR Haptic Feedback」を紹介したい.QuadStretchは4自由度の皮膚変形型触覚ディスプレイであり,両手の下腕に装着する.8つの触覚器で肌と接触し,ラックとサーボモータの動作によって触覚器を移動させ皮膚を変形させる.従来研究では,反力による触覚器の意図しない運動を大きなフレームによって軽減していたが,QuadStretchでは一対の触覚器を反対方向に動作させることで大きなフレームを削減し軽量化に成功した.VR-HMDを使用したデモを体験してみると,スリングショット体験では弾を発射したときの開放感やゴムの反発力と変形方向を感じ,クライミング体験では,腕で体を持ち上げる力を感じることができた.
 このように,久々の現地開催を含めたハイブリット形式のCHI ’22はHCI分野では欠かすことのできないデモ体験や参加者との密な交流を行うことができ,大変素晴らしい会議であった.しかしながら,残念なことに会議後の現地参加者のCOVID-19陽性人数が目立った.CHI ’22が5月11日に発表した現地参加後に陽性になった参加者数は113人であり,参加者の5.5%に相当する.現地会場ではマスク着用の義務があったが,一日に複数回の軽食がバイキング形式で配布され,食事をする場合にはマスクを外す必要があった.また,アクリル板のパーティションやアルコール除菌は筆者の知る限り用意されおらず,改善すべき点であると感じた.今後,CHIのような国際学会だけでなく国内学会でも現地開催やハイブリット開催が行われると予想するが,会議運営と参加者の両者とも引き続きCOVID-19の感染予防に注意する必要があると,改めて実感させられる結果となった.
 他方,注意を促すだけでなく研究や技術開発での現状打破がVRを専門とする我々に求められているようにも感じられた.筆者はCHI ’22で「Ukemochi: A Video See-through Food Overlay System for Eating Experience in the Metaverse」というVR環境でHMDを装着したまま食事を支援するアプリケーションを発表した.VRChat等のVR環境でHMDを装着したままでは,現実環境の食べ物は見えないため日常的な動作である食事が困難であった.また,Webカメラ等から取得した現実の映像をそのまま重畳すると,VR環境の臨場感を低下させてしまう問題があった.UkemochiはWebカメラ等から取得した食事領域を機械学習手法で検出し食事領域だけをVR環境に重畳することで,高い臨場感と食べやすさを両立した.また,UkemochiはVRChatやMozilla Hubs等のVR環境で動作するため,遠隔地間でCOVID-19のリスクを軽減した食事コミュニケーションが可能である.筆者は現地参加での食事を伴った交流の楽しさを保ち,拡張できるような研究に繋げていきたいと考えている.
 次回は2023年4月23日から28日にかけて,ドイツのハンブルクにて現地参加とオンライン参加のハイブリット形式で開催される予定である.
公式サイト:https://chi2022.acm.org

Category: 学会参加報告