IEEE VR 2021
小川 奈美(DMM VR lab/東京大学)
2021年3月27日から4月2日にかけての7日間,IEEE VR 2021がオンライン上で開催
された.IEEE VRは,1993年の初回開催以来,バーチャルリアリティ(VR)専門の
学術会議としては最も大きく,最も権威のあるトップカンファレンスとして知られ
ている.第28回の開催となる今回は,ポルトガル・リスボンとオンラインでのハイ
ブリッド形式の開催となる予定であった.しかしながら,世界的な新型コロナウイ
ルスの流行の影響により,昨年に続いて2回目のフルオンライン開催となった.7日
間の開催のうち,4日間がKeynote・Paper・Poster・Demo・Panelなどの発表を中心
とする本会議であり,残りの3日間はWorkshop・Tutorial・Doctoral Consortiumが
開催された.
今年の会議参加登録者は1212人であり,昨年の1966人と比較すると減少したもの
の,2年前の大阪開催での約1100人という記録を上回る数であった.IEEE VR 2018
以降,口頭発表が行われるPapersセッションはIEEE Transactions on
Visualization and Computer Graphics (TVCG)の特集号に掲載されるJournal
と,Proceedingsに論文が採録されるConferenceの2つのトラックに分かれている.
今年の採択率(採択数/投稿数)はそれぞれ,Journal 16% (25/161),
Conference 24%(92/389) であり,例年と大きくは変わらない水準であった.さ
らに,TVCGに直接採録された論文の招待発表であるInvited Journalから10件の口
頭発表があった.その他の主な発表については,Workshop Papers 83件,Posters
126件,Demos 10件が採択された.
オンライン開催を実現するために用いられたツールと形式について,参加報告が
行われなかった昨年の形式と比較しながら振り返りたい.今年は,Zoomを用いて発
表者は口頭発表を行い,参加者はYouTubeとTwitchに加えてバーチャルオフィス
ツールのVirbelaで配信を視聴することができた.事前にバックアップ用のプレゼ
ンテーションビデオを全ての発表者が提出していたものの,多くの発表者はリアル
タイムで発表を行っていた.また,Paperのトラックによらず発表時間は7分間で
あった.参加者からの質問はDiscordで収集され,非同期的な議論もDiscord上で行
われた.昨年のオンライン開催では,テキストコミュニケーションにSlackを,質
問収集にはSli.doを用いていたため,今年はこれらがDiscordに一元化された形と
なる.さらに,今年の発表形式で特徴的だった点は,発表ごとに質疑の時間を設け
るのではなく,セッションの終わりにセッション内の全ての発表者と座長がZoomに
集まり,全ての発表に対する質疑をまとめて行っていたことだ.発表者としては,
質問への回答を考える時間的猶予ができて嬉しい反面,座長の力量が問われやすい
形式であると感じた.もう一つの大きな変更点として,昨年MozillaHubsで行われ
ていたバーチャル空間でのデモ・ポスター・交流が,今年はVirbelaで行われたと
いう点が挙げられる.
基調講演は,Betty Mohler,Nuria Oliver,Frank Steinicke,Steven Feinerの
4名により行われた.Betty Mohler氏の講演はあらかじめ録画された講演ビデオを
再生する形式だったため,講演最中にも関わらず,Mohler氏本人がDiscordで他の
参加者と一緒にコメントやディスカッションをリアルタイムに行っていたのが印象
的であった.また,Redirected Walking Techniquesの研究等で著名なUniversity
of HamburgのFrank Steinicke氏による”B(l)ending Realities”と題された講演
は,氏のグループでこれまでに行ってきた,人間の知覚・認知・運動特性を活用し
たVR研究が非常に見通しよくまとめられた印象深い講演であった.なお,基調講演
を含むほとんどすべての発表についてYouTubeに動画がアーカイブされているた
め,是非活用していただきたい.
筆者は,Invited Journalとして”Virtual Co-Embodiment: Evaluation of the
Sense of Agency while Sharing the Control of a Virtual Body among Two
Individuals”の発表を行った.この論文では,複数のユーザで同一の身体(アバ
タ)を操作する”Virtual Co-Embodiment”というコンセプトと実証的なインタ
フェースを提案し,motor controlを他者と共有することがSense of Agencyに与え
る影響を検討した.TVCG論文は学会発表が任意であるものの,今回の発表後に
Discord上で多くの質問やコメントをいただくことができたため,口頭発表の重要
性を感じた.また,現地開催に比べ,オンライン開催では質問やコメントがより活
発に行われやすいように個人的には感じられた.オンライン開催のメリットも十分
に感じられたため,今後の学会では,オンラインと現地開催の良い部分を組み合わ
せたハイブリッド形式を期待したい.
来年度のIEEE VR 2022は,2022年3月12日-16日に,Christchurch, New Zealand
にて開催される予定である.
http://ieeevr.org/