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2019年2月2日

SIGGRAPH ASIA2 2018 参加報告

高谷 剛志(奈良先端科学技術大学院大学)

 SIGGRAPH Asiaとは,ACMが主催するコンピュータグラフィクスとインタラクティブ技術に関する国際学会SIGGRAPHのアジア版であり,当該分野における最高峰学会のひとつとなっている.今年のSIGGRAPH Asiaは2018年12月4日から7日にかけて,東京国際フォーラムにて開催された.日本での開催は2009年の横浜,2015年の神戸に続き,今回で3回目である.
 プログラムは主に9個に分けられる.Technical Papersは最先端研究を発表する場であり,高品質な論文のみが厳正な査読によって採択される.今年は投稿数353件に対し,106件が採択され,採択率は30%となった.1日目に開催されるFastForwardは人気プログラムの一つで,全採択論文の著者らが1分程度で簡単に要点を解説してくれるため,聴講計画作成には重要である.Technical Briefs/Postersは技術的な内容のみならずアートや教育に関する発表もあり,比較的リラックスした雰囲気の中でディスカッションが行われる.Coursesは公募を通して厳選されたチュートリアルで,初心者向けから上級者向けまで様々な内容が揃っている.ArtGalleryは最先端技術を駆使したメディアアート作品の展示会であり,一般的な学術会議とは違った雰囲気を感じることができる.Emerging Technologiesはインタラクティブ技術に関するデモンストレーションの展示会であり,全く新しい体験を得て,その場で開発者とディスカッションすることができる.Computer AnimationFestivalは映像作品の上映会であり,新しいアニメーション技術やビジュアルエフェクトなどが駆使されている.審査によって選ばれた数少ない作品のみがElectronic Theaterで上映される.Virtual & Augmented Reality (VR/AR) はその名の通りVR/AR/MRに関する最新技術やコンテンツ作品の展示会である.企業出展が多いため非常に完成度の高い体験を得ることができる.Real-time Live!は最新のコンピュータグラフィクスやインタラクティブ技術に関するリアルタイム・デモンストレーションの発表会であり,ライブパフォーマンスを楽しむことができる.これまでは北米開催の本家SIGGRAPHでのみ行われていたプログラムであったが,今回初めてSIGGRAPH Asiaでも導入され,非常に盛り上がっていた.Student Volunteerは教育的なプログラムであり,世界中から集まった100~200名の学生が運営補助を通して,様々なことを学ぶことができる.世界中に同世代の友人を作る機会となり,非常に有用な取り組みである.
 VR/ARでは19件の展示があり,どの展示も待ち行列ができるほどに人気であった.VRゴーグルによる視覚と聴覚への刺激に加えて,送風や吸着,椅子振動による触覚刺激などの工夫が行われていた.360度カメラによるMRを体験した印象として,仮想浮遊物体のキャストシャドウ生成などにおいてタイムラグをほとんど感じなかったため,かなり自然にインタラクションが可能であった.その他のAR展示に対する個人的な感想として,比較的速い動きであってもほぼタイムラグなく追従できるようになってきているが,オクルージョン処理などはまだ対応しきれていない.また,照明環境までは再現しきれていないため,外観に違和感を感じることがあった.
 Technical PapersのMixed Realityセッションでは4件の発表があり,上で述べたオクルージョン処理に関する発表が2件,ホログラフィックディスプレイに関する発表が1件,プロジェクションマッピングに関する発表が1件であった.ここでは特に,オクルージョン処理に関する発表2件について簡単に紹介する.“Depth from Motion for Smartphone AR”はGoogleの研究者らによる発表で,あらゆるスマートフォン上で動作する密なデプスマップ推定のパイプラインを提案した(https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3275041).単眼カメラ軌跡から選択した画像組を用いて推定した疎なデプスマップに対し,平面を仮定したバイラテラルソルバ(エッジを保存したスムージング手法)を用いることで密なデプスマップを推定している.“Fast Depth Densification for Occlusion-aware Augmented Reality”はワシントン大学とFacebookの研究者らによる発表で,SLAMで推定した疎なデプスマップから密なデプスマップを推定する手法を提案した(https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3275083).オプティカルフローに基づいて推定したデプスエッジを保存するように時空間的なスムージングを行っている.
 今回,SIGGRAPH Asiaに初めて参加し,SIGGRAPHが“祭典”と呼ばれている理由を肌で感じることができた.技術的な発表のみでなく,それを用いた応用技術やアート作品の発表・体験があり,非常に多様であった.発表者および参加者も大学の研究者のみでなく,企業の技術者やフリーの芸術家など様々であり,一般の方でも楽しめるイベントであると感じた.来年は,2019年11月17~20日にかけて,オーストラリアのブリスベンにて開催される予定である.

https://sa2018.siggraph.org/en/

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