SIGGRAPH Asia 2015 (Featured Sessions: Pioneers?? – You can become one too!) 参加報告
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|◆ SIGGRAPH Asia 2015 (Featured Sessions: Pioneers?? – You can become one
too!)
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矢谷 浩司(東京大学)
筆者はSIGGRAPH Asiaに初めて参加した.Technical PapersやEmerging
Technologiesなど最新の研究成果の他に,もう1つとても楽しみにしていたもの
があった.それがこのパネルセッションである.このパネルではコンピュータビジ
ョンの第一人者である金出武雄先生,Radiocityを生み出した西田友是先生,拡張
現実感の先駆者であるSteven Feiner先生がご登壇された.各先生方はご自身のご
研究と,それらを振り返ってどのようなことが大きな研究成果につながったかを述
べられた.聴講者も交えて多くのことが議論され,大変盛会であったが,筆者が特
に印象に残った3つのことを報告したい.
粘り強く追究する
3人の先生にまず共通されていたことが,軸となる研究領域において長きにわた
って貢献されていることだった. Feiner先生は1990年代から現実世界にデジタル
な情報を重畳する拡張現実感を実現した.ディスプレイ技術が限られていた1990年
代にそのようなシステムを実現するには大変な苦労があったことを述べられていた.
それでも諦めず技術的ブレークスルーを実現したことが今の拡張現実感の礎になっ
ていることは言うまでもない.Feiner先生は20年以上経った今でも拡張現実感シ
ステムを発展させ続け,HCI分野において多大な影響を残されている.
西田先生はRadiocityに関する研究を論文として発表するとき,なかなか国際会
議に採択されずご苦労された経験を述べられた.日本語では1984年3月に発表さ
れていたにもかかわらず,SIGGRAPHで発表するまでにはおよそ1年半もの時間を要
した.これは英語を母国語としない研究者にとっては必ず直面する壁であると言っ
てもよい.世界的にご活躍されている先生でも初めのころはそのようなご苦労をさ
れているというのは,若手の研究者にとってはむしろ勇気づけられることかもしれ
ない.ともすると研究ではその「サクセスストーリー」にばかりに目がいくが,研
究成果が日の目を見るまでにはどんな研究者であっても大変な思いをしていること
を忘れてはならない.
私が大変感銘を受けたのは,先生方が非常に多岐にわたる研究を紹介されていた
ことだ.1つの分野において研究を続けるというのは1つのトピックに固執するこ
とではない.どんな研究分野において新しい技術や理論が現れ,それらを基に新し
い研究課題が生まれる.盲目的に1つのことだけを研究していては取り残される.
自身の今までの経験と知識を軸にして様々な研究課題に挑戦する積極性が研究者に
は必要である.自分の研究領域を深く追究する忍耐力と新しい課題に足を踏み入れ
る勇気,これらこそPioneerであるために必要なものではないかと考えさせられた.
実現する力を養う
「今までに失敗した経験は何だったか?」―会場から1つ興味深い質問があった.
その質問に楽しそうな顔をされて金出先生が答えられた.金出先生が京都大学で坂
井利之教授,長尾真助教授の下で研究をされておられたころ,最初は「美しい研究
成果」を出したいと思っておられた.ニュートンの物理法則のように,数学的に簡
潔でありながら汎用的な理論といったものであろう.しかしながらそれは当然のご
とく難しく,何もできないまま卒業までの時間が近づいていた.その時長尾先生が
「もっと具体的なことに手を付けてみてはどうか」と金出先生にアドバイスされた.
研究室には1000人の顔のデジタル画像という,当時では世界最大規模のデータベ
ースがあった.金出先生は,このアドバイスをきっかけとし,画像入力から特徴抽
出,判定まで自動的に処理し,顔認識を行うという,研究室の画像データベースを
最大限活用したシステムを世界で初めて完成させた.
「研究は具体的な目標を伴ったものでなければならない」―金出先生はこの時痛
感された.ともすると研究者は,自分の研究がこうありたい,影響力のある成果を
残したいという「希望」ばかりをイメージし,そこにどのようにたどり着けばよい
かを考えないまま試行錯誤する.そうではなく,具体的な研究の「目標」を定め,
それを実現する.この歩みを絶やすことなく続けていくことこそ,「希望」を実現で
きるPioneerにつながる道ではないかと教えられた.
自分が成長できる場所を作り出す
筆者は2013年に大学に着任したばかり新米の教員である.着任当時から自分が
運営する研究室はどうあるべきかをずっと考えている.なかなか答えの出ない悩み
であるが,Feiner先生はお話しの中で,非常に多くの学生さんと共同で研究を続け
てきたことを強調されていた.それを聞いていると,先生の研究室はご自身にとっ
ても刺激が受けられる場所になっているように感じられた.
金出先生はご自身の学生に自分のアイデアをいろんな人と積極的に議論するよう
に指導されている.相手を納得させられてこそよいアイデアである,というのが先
生のお考えである.続けて,アイデアを盗まれてしまう危惧に対して,「もしアイデ
アを話して先を越されてしまったら,相手の実力のほうが上だったのだから,アイ
デアを話そうが話すまいが,先を越されていたはずだ.だからアイデアは積極的に
話したほうがいい」と金出先生は笑いながらおっしゃった.
学生たちの意欲を高め,掛け値なく積極的に知的交流ができ,自分自身も学ぶこ
とができる場を作りだすことが,研究室を運営する人間にとっては果たすべき責務
であることを再認識した.
以上,筆者の報告をご覧いただいてもこのパネルがとても異色であったことがお
分かりいただけると思う.しかし大変楽しい,意義のあるパネルであったことは間
違いない.このようなパネル討論やセミナーは,北米の大学ではよく行われている.
筆者がカナダのトロント大学に留学していた時もこのような「本音の話」を聞く機
会がいくつもあり,大変勉強になったのを今でも鮮明に覚えている.このようなパ
ネル討論が日本で拝見できたことは筆者個人として大変うれしい限りであった.こ
のパネルの実現にご尽力された大会委員長の北村喜文先生とセッションチェアを担
当されたChristian Sandor先生に敬意を表するとともに深く感謝したい.
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