HOME » 学会参加報告 » Dagstuhl Seminar on Virtual Realities 参加報告
2013年7月25日

Dagstuhl Seminar on Virtual Realities 参加報告

+———————————————————————-+
|◆ Dagstuhl Seminar on Virtual Realities 参加報告
+———————————————————————-+

清川 清(大阪大学)

ドイツ南西部の郊外にあるDagstuhl (ダグストゥール)は,ドイツの情報科学研
究のメッカである(図1).情報科学分野の文献データベースDBLPを整備しているこ
とでご存知の方も多いと思う.そこで開催されるセミナーは,情報科学の様々な分
野について先導的なアイデアを生み出してきたことで知られている.第一線で活躍
する研究者を世界中から招待するクローズドな会議であり,一週間ほど泊まり込み
でひたすら議論を繰り返す形式である.1990年から現在に至るまで年間50回程度の
セミナーが休みなく開催されており,さらに現時点ですでに2015年初頭までの予定
がぎっしり詰まっている.
今回,2013年6月9日(日)から14日(金)にかけて,”Virtual Realities”と題され
たセミナーが開催された.これは2008年のほぼ同時期に同タイトルで初めて開催さ
れたセミナーの続編にあたる.オーガナイザは以下の4名であり,第1回からは
Robert van Liereが新たに加わった.
・Guido Brunnett (Chemnitz工科大学, ドイツ)
・Sabine Coquillart (INRIA, フランス)
・Robert van Liere (CWI, オランダ)
・Gregory F. Welch (中央フロリダ大学, アメリカ)
彼らに招待された研究者は45名で,内訳はドイツ17名,アメリカ12名,日本4名,
オーストリア3名,ギリシャ・スペイン各2名,イギリス・フランス・スイス・カナ
ダ・オーストラリア各1名であった.海外の参加者はすでにIEEE VRや3DUI,ISMAR,
ACM VRSTなどで馴染みの面々ばかりであるが,特にCarolina Cruz-Neira (ルイジ
アナ大学),Steven Feiner (コロンビア大学),Henry Fuchs (ノースカロライナ大
学),Anatole Lecuyer (INRIA),Robert W. Lindeman (ウースター工科大学),
Paul Milgram (トロント大学)などは日本人によく知られているかと思われる.日
本からは,舘暲(慶應義塾大学)本学会初代会長,北村喜文(東北大学)本学会元理事,
稲見昌彦(慶應義塾大学)本学会元理事,および清川が参加した.北村教授のみが2
回連続の参加である.実はさらに数名が日本から招待されていたが,多忙などの理
由で辞退された点を付記しておく.
Dagstuhlはフランクフルトの南西約180kmの地点にあり,ドイツ・フランス・ル
クセンブルクの三カ国が一点で交わる国境からほぼ真東に約50kmの位置にある.一
般的にはフランクフルト空港などから鉄道で最寄りの駅Wendelまで移動し,そこか
らセミナーハウスまでの30km弱はタクシーを利用することが多いようである.郊外
の閑静な場所にあり,広い敷地内に古城を改築した美しい宿泊施設や現代風の図書
館などが建ち並ぶ.
主要な宿泊施設では建物自体が厳重に施錠される.それとは対照的に自室を外か
ら施錠できない(!)ので部屋を出る時は開けたままにせざるを得ない.また,昼食
・夕食時はランダムな席に置かれた自分の名札を探して着座するルールである.ゆ
ったりした空間に集団で長期間「幽閉」された上にこうした仕掛けが加わり,いや
でも(?)参加者同士がオープンに打ち解けあう仕組みができあがっている.
初日はレセプションのみであり,翌月曜からが会議本番である.月曜午前中には
各自2分程度の自己紹介があり,月曜午後から木曜にかけてTelepresence,
Applications,Health/Wellbeing,Virtual Environments,Commercial/Business,
Authoring/Content,Augmented Realityなどのセッションがあった(図2).各セッ
ションでは事前に希望した参加者が順に15分程度で研究紹介や問題提起の発表を行
い,その後30分ほどパネル討論形式で議論した.
また,火曜午後と金曜午前にはグループディスカッションがあった(図3).これ
は,いくつかのテーマについてグループに分かれてさらに深い議論を行い,また全
員で集まって議論の結果を報告するというものであった.具体的には,3DUI,
SciVis & VR,VR current state and challenges, Business,Real-time
interactive systems,Unconventional CAVE,Avatarsなどのテーマがあった.
SciViz & VRのグループでは,可視化コミュニティでVRが普及していない問題につ
いて,両方の技術に通じた開発者の不足などが議論された.Unconventional CAVE
のグループでは,水中で利用できるVRシステムなど新たな没入型VRの可能性が議論
された.
VR current state and challenges のグループでは,VRの利点の再確認から始ま
り,成功事例,さらなる普及を妨げる要因などが議論された.現在の巨大なゲーム
マーケットこそが最大の成功事例であるという指摘に多くの賛同が集まった.シス
テム間に一貫性,互換性がないことが取り沙汰され,例えばUnityでは何故不足な
のか,非常に広範で多様なVRシステムをサポートする統一的基盤システムの開発が
いかに困難であるかといった議論があった.こうした問題認識は各国共通であり,
今後も継続して議論することになった.
セミナー全体を通して,”Democratization of VR” (VRの民主化) に関する議論
が頻繁にあった.Wiimote,Sony Move,Oculus RiftやKinect,Leap Motionを始め
とする安価な民生用ハードウェアが続々と登場していることでVRは新たな段階に入
っていること,研究者もそれらを積極的に利用すべきであるとの議論が頻繁にあっ
た.
毎夕食後にはビールやワインを飲みながら,ギター演奏,カードゲーム,人狼な
どを楽しむ様子があちこちに見られた.水曜午後には紀元前に建設されたドイツ最
古の都市Trier (トリーア) へのバスツアーがあり,大聖堂などを観光する機会が
設けられた.
普段であれば国際会議で顔を合わせていても,お互い会議運営やメール処理など
に追われて短時間の会話しかできない場合が多い.ところが,Dagstuhl Seminarで
はあくせくとノートパソコンに向かって内職するような姿はほとんど皆無で,大勢
の参加者とゆったり会話を楽しむことができた.特に,国際会議の運営に関わる参
加者が多いことから,それぞれの会議の将来を真剣に議論するような会合が多数自
然発生した.普段ならメールで何ヶ月もかかるような意思決定が短時間でサクサク
なされていき極めて有益であった.
今回の様々な議論をフォローアップするような会合やサーベイ,執筆活動などが
今後継続してなされていくと思われる.そのような機会に触れた際にはぜひ積極的
に参加いただきたい.なお,本セミナーの詳細情報は以下から参照いただきたい.
( セミナーURL: http://p.tl/OAzV )

図1 Schloss Dagstuhl

図1 Schloss Dagstuhl

図2 セッションの様子

図2 セッションの様子

図3 グループディスカッションの様子

図3 グループディスカッションの様子

Category: 学会参加報告

この記事へコメントすることはできません