Augmented Humans 2025
小関 裕介(東京大学)
Augmented Humans 2025 は,2025年3月16日から20日にかけてアラブ首長国連邦・
アブダビにあるThe Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence
(MBZUAI)にて開催された.本会議は,人間拡張研究に焦点を当てた Human-Computer
Interaction(HCI)の国際会議であり,毎年春頃にさまざまな都市で開催される.
論文採択率は,Paperが78件中32件(採択率41%),Posterが23件中21件
(採択率91%),Demonstrationsが8件中7件(採択率88%),Workshopsが
4件中2件(採択率50%)であった.論文のレビューについては,1件あたり少なくとも
3人のレビューが行われ,レビュアー同士のオンラインミーティングが実施されたことも
報告された.この中から,Best Paper Awardが1件,Honorable Mention Awardが
3件,Best Poster Awardが1件,Honorable Mention Poster Awardが1件,
Best Demonstration Awardが1件,Honorable Mention Demonstration Awardが
1件選出された.
会議1日目は,「Secured Augmentation: On-Body Security and Safety
Interfaces」と「Beyond Human: Cognitive and Physical Augmentation
through AI, Robotics, and XR – Opportunities and Risks」の2つのWorkshopが
おこなわれた.筆者は「Secured Augmentation」に参加し,MR環境での活動中に記録される
映像にBystander(第三者)が映り込んでしまう問題に対して,センサーを用いたプライバシー
保護のあり方について議論をした.専門とは異なる分野での議論の難しさを感じつつも,
主催者の丁寧な進行やサポートに支えられ,安心して意見交換に参加することができた.
会議2日目から5日目にかけてはPaper presentationやPoster・Demo展示など
合わせて50以上の発表がおこなわれた.セッションは,「AR/VR Interaction &
Physical Augmentation」,「Virtual Reality & Human Experience
Enhancement」,「Bionic & Assistive Systems」,「Robotics and Avatars」,
「Decision-Making & Human Behavior」,「Exploring Body-Augmentation」,
「Cognitive & Perceptual Augmentation with AI」,「Sensory Technologies」
の8つのテーマに分かれて実施された.筆者としては数多くの発表を聴講したり,実際に
体験できたことが大きな学びと収穫となった.Best Paperとして表彰された
Batraらの「texTENG: Fabricating Wearable Textile-Based Triboelectric
Nanogenerators」では,人体の動きを電力に変換するTENG技術に着目し,ウェアラブル
デバイスに適した柔軟で通気性のある繊維ベースの構造を提案していた.従来は
材料の入手や製作の難しさから,DIYや製造業での活用が限られていたが,本研究では,
誰でも扱いやすい製作フレームワーク「texTENG」を提案し,編む・織る・組む
といった手法を用いた1D〜2.5DのTENG構造の実装例と技術的評価が紹介された.
また,Honorable Mention Awardを受賞した橋浦らの「“When to Take the Lead?”
Mediation of Motion Intention in Collaborative Avatar Manipulation」
では,2人の参加者が1本のロボットアームを共同操作し,障害物回避を含むリーチング
課題を通じて,2人の意思が競合した際にどのように調整・解決が図られるのかが調査
された.結果として,参加者は単に個々の戦略に基づいて動くのではなく,ロボット
アームの動きを通じて互いの意思をすり合わせることや,リーダーとフォロワーの
役割は固定されるものではなく,状況に応じて動的に切り替わることが明らかとなった.
筆者は会議4日目に,バーチャル環境におけるアバターの融合身体技術を活用した
コミュニケーションシステムの研究についてのポスター発表を行った.コアタイムには
多くの参加者がポスターセッションに集まり,活発なディスカッションが展開された.
特に,自身と関心の近い研究者とその場で意見を交わし,連絡先を交換できたことは,
対面開催ならではの貴重な機会となった.
次回のAugmented Humansは3月16日〜3月19日にかけて沖縄のOIST(沖縄科学技術
大学院大学)で開催される予定である.
公式サイト: https://augmented-humans.org/