第23回日本VR医学会学術大会
中口 俊哉(千葉大学)
第23回 日本VR医学会学術大会は,2024年8月31日(土)に東京大学本郷キャンパ
ス医学部2号館本館で開催された.23回目の開催となる本大会は,関東学院大学の
金井Pak雅子先生が大会長を務められ,「VR・メタバースによるヘルスケアの改革」
をテーマに,準備が進められてきた.以前より本大会は工学系と医学系の研究者
がバランス良く集う学術集会であったが,近年は看護系の研究者の参加が増加し
ており,本大会では看護系研究者の発表演題も多く目にした.
学術大会の構成としては,教育講演1件,特別講演1件,学生による企画セッシ
ョン,一般演題33件であった.開催形式は当初対面のみとされていたが,大会の
会期に大型台風が近づいていたため,急遽,ハイブリッド開催に変更となった.
実際,開催当日は荒天により日本各地で交通機関が乱れたが,開催プログラムへ
の影響はなく,全ての演題が発表され,多くの方々が参加できた.短時間でのハ
イブリッド開催への切り替えは困難を極めたと思われるが,運営事務局のご尽力
に感謝申し上げたい.
本大会は,日本VR医学会学術大会としては初の試みとなる,複数会場で並行し
てマルチトラックでの開催となった.主催者によると,1演題の時間を短くしてワ
ントラックに収めるか悩んだそうであるが,マルチトラックにすることで質疑応
答の時間も十分に確保され,活発な意見交換ができてよかったと思われる.一方
で,全員が全ての演題を聴講できるワントラックの良さもあるので,次年度以降,
一般演題数が増加する場合は2日間の開催も検討することが必要と思われる.
教育講演では,東京大学大学院情報学環の藤本徹先生よる「医療分野における
VR技術を活かすゲーミフィケーションの考え方」と題した講演がなされた.自発
的な参加意欲の向上や継続支援の手法として,多くの分野で導入が進められてい
るゲーミフィケーションについて,その基本的な考え方から,具体的な事例によ
るゲーム要素の取り入れ方,医療応用など詳しく紹介された.
特別講演では,東京大学情報基盤センターの雨宮智浩先生による「体験の再定
義:フィジカルとバーチャルの新たな融合に向けて」と題した講演が行われた.
大学教育をはじめ,様々な学習や訓練の場面でメタバースの活用が進められてい
ることを背景に,メタバースやVR技術を活用した教育や訓練の新しい可能性につ
いて述べられた.講演者による研究成果として,ヒトはアバターに着替えること
で,従来の対面教育では得られない新たな学習体験に繋がる可能性が示された.
一般講演では,「ケア」「教育」「基礎・開発」「手術」「医療」のトピック
で8セッションが組まれた.工学系研究者によるVRの要素技術に関する研究発表に
加え,医学系,看護系の研究者によるVR応用事例の研究発表が数多くなされた.
昨今,ノーコード・ローコード開発環境が整備されたことにより,非工学系の研
究者でも独自で高品質なVRアプリケーションを開発できることが示された.また,
生成AIを活用したコーディングだけで,高度な機能を有するアプリケーションが
開発できることも示され,時代を垣間見ることができた.
本大会は,もう一つの初の試みとして学生だけで企画するセッションが設けら
れた.「メタバースとVRで描く医療の未来」というテーマで,学生向けの講演
「スペシャルトーク」や「医療×VRクイズ大会」など,初めての学生でも気軽に参
加できる雰囲気づくりに工夫が凝らされていた.
以上,第23回 日本VR医学会学術大会は大変盛況に開催された.医療向けのVRと
いう限定されたトピックながら,参加者は多様で熱気に溢れている.ぜひ皆さん
にも参加していただきたい.なお次回,第24回 日本VR医学会学術大会は2025年夏,
大阪大学で開催予定となっている.
公式サイト:https://www.jsmvr.org/