Cybernetic being symposium
畑田裕二(東京大学)
2021年10月15日、サイバネティック・アバター技術が生み出す未来社会とその可能性を議論するシンポジウム「Cybernetic being symposium」が、SHIBUYA QWSとオンライン配信のハイブリッド方式で開催された。サイバネティック・アバター(以下CA)とは、人のさまざまな能力を拡張するロボットアバターや3DCGアバターを包括する概念のこと。本シンポジウムを主催する“Project Cybernetic being”は、科学技術振興機構ムーンショット型研究開発事業にて、「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」に取り組んでいる。シンポジウムでは、プロジェクトを構成する6つのグループの課題推進メンバーが一堂に会し、各グループの活動内容と今後の展望が語られた。
会の冒頭に、Project Cybernetic beingのプロジェクトマネージャーである南澤孝太教授(慶應義塾大学)より、プロジェクトの概要が紹介された。Project Cybernetic beingが目指すのは、人々がCAを通じて、多様な経験と多彩な技能を自在に流通・享受し、誰もが生まれながらの身体の制約を超えて豊かな人生経験を得られるような未来社会。
続いて登壇したのは、コア技術の開発を担う3つのグループのメンバー。(1)認知拡張研究グループは、状況や環境に応じて自分の可能性を自在に引き出せる身体をデザインするために、身体性と社会性の認知的拡張技術の開発を担う。(2)経験共有研究グループでは、異なる時空間を同時に知覚・行動することを可能にする、経験の並列化と融合的認知行動技術の開発が行われている。(3)技能融合研究グループは、自分と他者の技能を融合して個人の能力を超えられる身体の実現に取り組んでいる。
本シンポジウムの後半では、CAの社会実装に向けてCA基盤やCA生活の研究を行う3つのグループのメンバーが登壇した。(4)CA基盤研究グループは、人とCAとを双方向接続する経験と技能の流通ネットワークの構築を担当する。さらに、CAを通じた多様性と包摂性の拡大とWell-beingの追求を行う(5)社会共創研究グループと、CA時代の新たな倫理と社会制度のデザインを検討する(6)社会システム研究グループが続いた。ALSなどの難病や重度障害で外出困難な人々が分身ロボットを遠隔操作しサービススタッフとして働く「分身ロボットカフェ」(株式会社オリィ研究所)や、テレプレゼンスロボット「newme」を通じて実世界の遠隔地へアバター旅行に行くavatarin(avatarin株式会社)など、課題推進メンバーがこれまで取り組んできた事例を踏まえた議論が行われた。
その後、ムーンショット型研究開発事業目標1の構想ディレクターである萩田紀博教授(大阪芸術大学)を迎え、パネルディスカッションが行われた。最後に、Project Cybernetic beingに多く寄せられる質問として「将来の人間はアバターでのみ活動し、肉体は不要になってしまうのか」が取り上げられた。南澤PMはこれに対して「明確にNoと言いたい。身体は、経験が集約され、自己の存在が宿る重要な場所。我々が目指すのは、色々な『身体』を使って自分自身の経験を拡張できる未来です。Cybernetic beingという新しい生活の仕方、自分たちの生き方を、みんなで一緒に考えていきましょう」と応え、シンポジウムを締め括った。
公式サイト:https://cybernetic-being.org/