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2019年9月25日

SIGGRAPH 2019(展示)

泉原厚史(東京大学)

 2019年7月28日から8月1日の5日間,アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼ
ルスにて SIGGRAPH 2019 が開催された.SIGGRAPH は ACM のコンピュータグ
ラフィクスを扱う分科会の呼称であり,国際会議・展示会は 1974年より開催され
今年で46回目の開催である.
 SIGGRAPH のメイントピックは CG であり,今年もたくさんのシミュレーショ
ンやレンダリング手法等についての研究が発表された.柔軟物体や流体,物体の破
壊のシミュレーションなどは長く研究が行われている分野であり,日々進化し続け
ている.すべてのテクニカルペーパーを2時間で紹介しきる “Fast Forward” で,30
秒の持ち時間をすべて使ってデモ動画を流し,一言も喋らずにステージを立ち去る
発表者がいたのはインパクトがあった.また,この30秒でいかに笑いを取るかを工
夫している登壇者が多く,飽きずに聴講することができた.
 個人的に興味を持った発表を2つ紹介したい.一つは Disney Research と ETH
Zurich から発表された “Vibration-Minimizing Motion Retargeting for Robotic Chara-
cters” である.針金のような細い構造で作られた演技をするロボットを単純にモー
タの角度指定で動かすと,構造の部分が揺れてしまうが,各関節モータ制御だけで
制振し理想通りの動きをさせるという研究である.ビジネスも視野に入れた企業の
ビジョンと研究としての美しさの両方を備えたインパクトのある発表であった.
 Yaser Sheikh 氏によるリアルな人のアバターを作るための Facebook Reality
Labs の活動に関する講演も非常に興味深かった.氏は CMU の Robotics Institute
において,RGB, Depth, 人のボーンについての大量データセットを作る Panoptic
Dataset Project やそれを用いた単眼カメラによるリアルタイム多人数ボーン推定技
術 OpenPose のプロジェクトを牽引した人物であるが,2015年より Oculus Rese-
arch / Facebook Reality Labs のディレクターも兼任している.これまで長きに渡っ
て研究されてきた人物の表情生成やリライティングなどに,最新の機械学習技術を
加え,さらに高いレベルで統合し仕上げる活動についての報告であった.VRと機
械学習という2つの大きな時流が交差する場所で,新たなブレイクスルーが生まれ
る予感を感じさせる講演で,非常にワクワクさせられた.
 SIGGRAPH といえば映画業界と強く結びついていることでも知られている.コ
ンピュータグラフィクスの新しい表現を探索する短編アニメーション映画の祭典で
ある Electronic Theater では,Disney の短編映画を始めとし,学生作品など多数の
短編アニメーションを大きな劇場で次々と鑑賞することができた.CGとしての表
現力は言うまでもないが,家族や生死,ダイバーシティをテーマとした作品が大多
数出会ったのが印象的であった.また,”SPIDER-MAN: INTO THE SPIDER-VER-
SE” や “Avengers: Endgame” のメイキングに関する講演も行われて大盛況だったよ
うだが,私は続けて述べるデモにつきっきりであったため残念ながらそこには参加
できなかった.
 我々は ”Transfantome” という作品を Emerging Technologies の枠で出展しデモ
を行った.大きさ・力・精細さ・場所の異なる複数のロボット(身体)を一人のユ
ーザが使いこなすことで,人間が新しい場所において新しい活動を行うことを可能
とすることを目指した研究で,デモにおいては,人間の2倍ほどの大きさのロボッ
トと半分ほどの大きさのロボットを乗り換えて,自動車解体を模擬した作業を行っ
てもらった.感度の高い多数の参加者に対してデモをし質の高いフィードバックを
もらえる貴重な機会であった.
 今年の Emerging Technologies は例年にもまして日本からの出展が多く,身内の
間で “Little Tokyo” と冗談を言ったりもした.また一方で,テクニカルペーパーに
はほとんど日本からの投稿はなかった.どのような背景がこの状況を作り上げてい
るのかについては,冷静な分析が必要なのではと感じる.
 次回はアメリカ合衆国ワシントンD.C. において,2020年7月19日-23日に行われ
る.その翌日7月24日からは東京でオリンピックが始まる.来年の夏はとてもエキ
サイティングなものになりそうだ.
 公式サイト:https://s2019.siggraph.org/

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