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2023年5月25日

IEEE VR 2023

 伊東健一 (東京大学)
 2023年3月25日から29日の5日間,バーチャルリアリティ(VR)および3Dユーザインターフェース
分野の国際会議であるIEEE VR 2023(https://ieeevr.org/2023/)が開催された.
同会議はCOVID-19の影響により過去3年間オンライン開催されてきたが,今回は上海・浦東
シャングリラホテルの現地会場とZoomを併用したハイブリッド形式で実施された.また,渡航が
難しい参加者に向けて,大阪市のサイバーエージェント株式会社大阪支社や米国の
バージニア工科大学にサテライト会場が設置された.タイムゾーンの異なる参加者へ向けて
セッションの12時間後に録画を再生する”Double-time mode”,Minecraftを用いた
バーチャルポスター会場など,現地開催に戻ったとはいえオンライン開催で得てきたノウハウも
活用されていた点が印象的だった. 会議の初日と2日目には,18件のWorkshopや5件の
Tutorial,Doctoral Consortiumなどが行われた.2日目の夜には,口頭発表される
論文の概要を短時間の動画でまとめて把握できるPaper fast forwardのセッションも
開催された.3日目から5日目では,基調講演やパネル,口頭発表,ポスター発表,デモ発表
などが行われた.
 口頭発表セッションの査読では,初の試みとして「統一された審査プロセス」が採られた.
従来はJournalとConferenceのトラックに分かれて投稿を受け付けていたが,IEEE VR 2023
では単一の提出先に論文が投稿され,査読の評価に応じて各トラックに振り分けられた.
その結果,612件の投稿があり,IEEE Transactions on Visualization and
Computer Graphics(TVCG)の特集号に掲載されるJournal Paper 61件,Conference
Paper 69件が採択された(合計の採択率21.2%).
 会議の3日目から5日目にかけて,4件の基調講演が行われた.Microsoft Researchの
Baining Guo氏は,フォトリアルな3Dアバターを写真や単語から生成する機械学習モデル
RODINや,遠隔でもすぐ近くにいるかのように対話できる映像伝送システムVirtualCubeの技術
解説を通じて,AIを活用するための基本的な考え方を論じた.メリーランド大学のMing C.
Lin氏は,医療や服飾,交通などの分野で物理世界の情報をバーチャル世界に再現するソフトウェア
の研究について紹介した.折しも2022年から今年にかけて,Diffusionモデルや大規模言語モデル
を用いたサービスが次々に登場し,世界的に大きな話題を呼んだ時期であった.従って,基調講演の
内容にも機械学習に関するものが目立ったほか,質疑でもChatGPTのような新しいツールとの関わり方
が話題になるなど,AI技術への急速な関心の高まりが感じられた.VRにおいても,今後さらにAIの
積極的な活用が進む予感を感じられる講演だった.
 口頭発表では,VR/ARを実現するためのデバイス開発から知覚に関する実験結果まで多様な
研究が発表された.筆者が発表者として参加したMultimodal and Hapticsのセッションでは,
多感覚刺激の提示を用いて様々な知覚を作り出す意欲的な研究がみられた.Ping-Hsuan Hanら
のGroundFlowは,実際の水を用いた足裏への流体感覚提示デバイスであり,ノズルの形状や
使用する数を変えると方向性や流れの特徴が異なる水流を作り出せることが示された.松室美紀らの
“Modified Egocentric Viewpoint for Softer Seated Experience in Virtual
Reality”では,着座時の視点の高さや角度を操作するだけで椅子の柔らかさ知覚が変化する一方で,
感覚情報間の不一致によって不快感が生起することが明らかになった.筆者らは,自然風を模擬した
気流とVR提示を組み合わせた場合のリラックス効果に関する検証結果を”Wind comfort and
emotion can be changed by the cross-modal presentation of audio-visual
stimuli of indoor and outdoor environments”として発表した.実験では,穏やかな
自然風が吹く屋外の視聴覚刺激を提示すると,風に対して抱く印象や感情が改善するとの結果が
得られた.
 Best Paperには以下の4報が選ばれた.児玉大樹らの”Effects of Collaborative
Training Using Virtual Co-embodiment on Motor Skill Learning”では,融合身体の
技術を用いることで運動技能を効果的に学習できることが示された.Karl Eisenträgerらの
“Evaluating the Effects of Virtual Reality Environment Learning on
Subsequent Robot Teleoperation in an Unfamiliar Building”では,建物内で
遠隔操作ロボットを制御する際に,VRの立体地図により環境を学習することでパフォーマンスが向上する
ことが明らかになった.Roshan Venkatakrishnanらの”How Virtual Hand Representations
Affect the Perceptions of Dynamic Affordances in Virtual Reality”は,
コントローラの形状とバーチャルハンドの見た目が異なる場合に,動的なVR操作のパフォーマンスが低下する
というものだった.石原敦らの”Integrating Both Parallax and Latency Compensation
into Video See-Through Head-Mounted Display”では,ビデオシースルーヘッドマウント
ディスプレイにおいて空間的・時間的一貫性を両立させるために,エッジの滑らかさに着目した補正や
バーチャル映像のワープ等を用いたアルゴリズムが提案された.
 来年のIEEE VR 2024は,米国フロリダ州のオーランドで2024年3月に開催予定である.

公式サイト:https://ieeevr.org/2023/

 

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