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2025年9月25日

SIGGRAPH2025

松本 篤弥(東京大学)

本年度のSIGGRAPHは2025年8月10日(日)から14日(木)の5日間にかけてカナダのバンクーバーコンベンションセンターにて開催された.SIGGRAPHは1974年に初回の会議が開催されて以来,長年にわたり北米で毎年開催されており,コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の分野において世界最高峰の国際会議&展示会として周知されている.主要なプログラムとしては,論文誌に掲載される論文を発表するTechnical Papers,最先端技術を体験できるEmerging Technologies (E-Tech),VR/AR/MRなどの没入型コンテンツを集約したImmersive Pavilion,リアルタイム技術のライブデモを競うReal-Time Live!などが挙げられる.SIGGRAPH 2025では84カ国から12,400名以上が参加し,会場は活気に満ちていた.特にTechnical Papersへの論文投稿件数は過去最多となる970件超に達し,本会議が最先端かつ高品質の研究が集まる場であり続けていることがうかがえる.

会期中には,Adobe Researchによる「Can Computers Create Art?」や,NASAによる「Future Earth: Storytelling From Space and the Exoplanet Revolution」など多岐にわたるテーマで4件の基調講演が行われた.NVIDIA Researchによる講演「NVIDIA Research Special Address」では物理シミュレーションと生成AIを融合させた「世界モデル」に関する最新の成果が紹介された.これは物理世界と相互作用し,環境に働きかける自律的な人工知能(AI)であるEmbodied AIの実現を志向するものであり,メディア,自動車,製造,ロボティクスといった幅広い産業への応用が展望された.

E-Techは,研究のインタラクティブ技術を来場者が実際に体験できるプログラムである.日本からも,指先への電気刺激を用いて遠隔地の相手と触覚を伝え合う「TeleTouch」,VR内で無限に続く階段を歩くといった不可能物体を物理的に体験させる「Interactive Impossible Objects」,鳥の羽ばたきを模した制御で空間を浮遊するクジラ型のロボットアバタ「Spread Your Wings」などの多くのデモが出店していた.また投票によって選出されるAudience Choiceにはヒューマノイドの一部として機能する形態と,本体から分離して独立して動く形態を切り替えられる手形状のロボットアバタ「Handoid」が選ばれた.E-Techの展示の中でも特に大きな注目を集めていたのが,Meta社による広視野角MRヘッドセット「Wide Field-of-View Mixed Reality」であった.本機は,人間の視野に迫る水平180度,垂直120度という広視野角を実現し,多くの体験者がその性能に感嘆の声を上げていた.

今年のSIGGRAPHに参加し,全体を通してAIを用いた研究やデモが依然として大きな潮流であることが確認できた.しかし,その方向性は,単に人の作業を支援・代替するという従来の利用方法から,人間と協調し,創造性や身体性を拡張する方向へと研究の重心がシフトしつつあるように見受けられた.さて,次回のSIGGRAPH 2026は,2026年7月19日から23日にかけて米国・ロサンゼルスで開催される予定である.また,2027年はアナハイムでの開催が予定されている.

公式サイト: https://s2025.siggraph.org/

Category: 学会参加報告