IEEE VR 2025
横井 総太朗(東京大学)
IEEE VR 2025は3月8日から12日まで,フランス北西部サン・マロ(Saint-Malo)
で開催された.IEEE VRはバーチャルリアリティ(VR)と3Dユーザーインタフェース
分野のトップレベル国際会議であり,フランスでの開催はIEEE VR 2015以来10年
ぶりとなる.美しい城壁と海に囲まれた会場は強く印象に残った.
参加者の国籍はフランス,米国,ドイツ,日本,中国の5 か国で全体の65%を占め,
合計44か国から研究者が集まった.
会期前日にはVR Lab Tourが行われ,レンヌ地域のINRIAおよびIRISAを訪問し,
CAVEシステムや高品位の触覚ディスプレイなどの研究デモを体験した.会期中は
基調講演4件,論文発表227件(IEEE TVCGペーパ136件,Conferenceペーパ75件,
既掲載IEEE TVCG16件),パネル2件,ポスターセッション3件,研究デモ40件,
3DUIコンテストデモ11件,XR Gallery17件が実施された.XR Galleryは今年
新設されたトラックで,XRに関連するアート作品を展示した.
論文投稿数は785件で,136件(採択率17%)がIEEE TVCGペーパ,75件(10%)が
Conferenceペーパとして採択された.初日に論文賞が発表され,ベストペーパ7件と
Honorable Mention17件が選出された.ベストペーパには,KukshinovらによるVR
におけるPerspective-Takingの課題提示,Kangらによるアバタ改変の社会的受容性の
調査,Nakanoらによる下方視野を拡張したHMDによるアバタ提示など,多岐にわたる
トピックが含まれた.また閉会式でデモ賞が発表され,XR Galleryでは
MuramotoのImagraphが受賞した.この作品は閉じた瞼越しに光ファイバーで光を
投射し,瞼が光を拒みつつ媒介となる二重の役割を果たすメディアであった.
筆者は2日目のワークショップVR-HSA(Human and Spatial Augmentation)で,
不可能立体を両眼立体視環境でレンダリングする手法を発表し,多くの研究者と活発に
議論できたことは大きな収穫であった.
基調講演の一つでは,3D Gaussian Splatting(3DGS)の提案グループの一員で
あるDrettakis上級研究員が,3DGSの原理と応用,さらに新技術の流行に乗る姿勢と
乗らない姿勢をどう両立させるかという研究スタンスを紹介した.最終日のパネル
“Where will Extended Reality and AI Take Us?” ではXRとAIの未来が議論
された.パネリストは当初VR空間に登壇し,その様子が会場スクリーンに映し出された.
VR空間にはGPTモデルで駆動するアラン・チューリングのアバタも参加しており,
途中でパネリストが物理会場へ移動した後もチューリングをVR空間に残したまま討論が
続行された.故人をAIで再現するバーチャルエージェントの倫理的課題が提起され,
急速に発展するGPT系モデルが人間を取り巻くアプリケーションに入り込む際に
何が起こるのかを解明することが喫緊の課題であると感じられた.
来年のIEEE VR 2026は韓国・大邱(Daegu)で3月21日から25日まで開催される
予定である.
公式サイト:https://ieeevr.org/2025/