WorldHaptics 2021
堀江新(東京大学)
7月6日~9日にかけて,IEEE World Haptics Conference (WHC) 2021がバーチャルプラットフォーム上で開催された.WHCは触覚分野における最大規模の国際専門会議であり,触覚の機序に迫る研究や,触覚提示やセンシング技術,AR・VRを始めとしたアプリケーションの研究など,触覚に関わるあらゆる研究発表が行われている.
今回の国際会議は70件のConference Papersおよび17のTransaction on Haptics (ToH) Short Papersが口頭発表として発表された.後者はToHへの掲載が行われるというジャーナルトラックの形式である.また,72件のWork in Progress (WIP) Papers,15件のInteractive Demonstration,さらに,ToHにて採録された直近の研究課題から45件がToH Interactive Postersとしてポスター発表が行われた.他にもCross-Cutting Challenge(キーノート発表とパネルディスカッション)やWorkshop,触覚専門会議ではおなじみのStudent Innovation Challengeなど,多岐に渡るセッションが設けられた.
本来カナダ・モントリオールで開催される予定であったが,昨今のCOVID-19の状況により,バーチャルプラットフォーム上での開催となった.近年のオンライン開催の学会としては極めてUXに優れていたと言える.常に現在進行中のセッションがユーザーのタイムゾーンの時間帯として表示されており聞き逃すことが少ない設計となっており,アクセスしたいコンテンツに素早く到達できる仕様であった.
私は皮膚のせん断変形刺激をベースにして,なめらかに撫でられている感覚を実現する手法に関する研究を口頭発表のセッションにて発表した.口頭発表の形式は基本的に事前に提出する3分間の動画プレゼンテーションとライブでのQ&Aであったが,私が発表を行ったAward Candidatesセッションでは提出動画に6分間の時間が与えられた.発表セッションでは同時接続数が250人を越え,活発な質疑応答が行われた.
同セッションで発表を行っていたAline Ablerらの”Hedgehog: Handheld Spherical Pin Array based on a Central Electromagnetic Actuator”は磁性流体を活用した触覚ディスプレイに関する研究であり,新規性に溢れた研究トピックでありながら評価も盤石なものであった.デバイスは球体型であり,球面上に配置した穴からピンが押し出されてくるという非平面ピンアレイである.この研究はBest Student Paper Awardに選出された.また,Best Paper Awardとして篠田・牧野研究室の藤原正浩先生らによる”Reflection Pattern Sensing for Valid Airborne Ultrasound Tactile Display”が選ばれた.他にもWIPやDemoセッションにおいて日本から参加した研究者らによる研究が数多く受賞しており,日本の触覚研究分野の存在感が強調される形となった.
次回のWHCは2年後の2023年,オランダ・デルフトで開催予定である.触覚という性質上やはりバーチャルプラットフォーム上での開催は物足りなさを感じるので,現地開催されることを願っている.
公式サイト:https://2021.worldhaptics.org/