インタラクション2019 参加報告
木村 正子-Shoko Kimura(北陸先端科学技術大学院大学,日本サード・パーティ(株))
2019年で23回目の開催となった情報処理学会インタラクションシンポジウムは3月6日から8日までの3日間にかけて東京千代田区学術総合センター/一橋大学一橋講堂(昨年度と同会場)にて開催された.本会議は主に登壇発表,インタラクティブ発表(デモ発表),インタラクティブ発表(ポスター発表)の3つのカテゴリから構成されている.今年度は697名の参加者が集まった.
登壇発表では34本の投稿の中,厳選な審査の結果18本が採択された.インタラクティブ発表の採択件数は過去最大の211件であり,内40本がプログラム委員会選出のプレミアム発表として採択された.ポスター発表は昨年から設けられた投稿カテゴリであったが,今年のポスター発表の件数は昨年よりも40%増加し,新しい投稿カテゴリが定着したと推測された.また,登壇発表やインタラクティブ発表概要説明はYouTube Liveで中継された.
1日目は,論文賞を受賞した粥川らによる「BBeep:歩行者との衝突予測に基づく警告音を用いた視覚障害者ための衝突回避支援システム」の発表があった.視覚障害者が混雑した道を歩行する際に警告音を発して周囲に注意を促し,衝突を回避するシステムの実装と評価であった.視覚障害者が持ち歩くスーツケースに取り付けられたステレオカメラで周囲の歩行者の位置などを検出し,歩行者にぶつかりそうな状況になると警告音を発するようになっている.ポスター・デモ発表では高田らによる「プロペラを用いた頭部装着型歩行牽引デバイス」がヘルメットに送風機を8個付けて人を案内するという斬新なアイディアの発表が印象深かった.山岡らによる「 ProtoMold: 形状が変化する型と真空成形による素材再利用可能な高速プロトタイピング」では真空成形法と動的なピンディスプレイを組み合わせた新しい造形方法を提案していた.実際のデモではピンディスプレイを操作し,薄いプラスチックシートで真空成形を体験することができた.中にはピンでテトリスやブロックを描き楽しんでいる参加者もいた.
昼休みの時間には,女性研究者同士の研究に関する議論や交流を目的としたWomen’s Luncheon が実施された.クラウドファンディングサイト「Readyfor」の創業者である米良はるか氏によるゲストトークが行われ,質疑応答の場面では活発な議論と交流が行われた.参加者には昼食とケーキが振る舞われ,幅広い年齢層の女性研究者が穏やかな雰囲気の中,それぞれの研究や仕事・学業の話で盛り上がった.
2日目は前日を上回る参加者が集まった. デモ・ポスター発表では,宮武らによる「マグネットスイッチ:格子状回路を用いた磁石による入力システムの開発」の画面に向かってダーツの様にマグネット式の矢を投げて遊ぶデモや,高崎らによる「空中への運動視差立体視CG映像の投影と手による直接的なインタラクションの提案」の空中に浮かんだ画像に触れるとその画像に凹凸が生まれるシステムなどの印象的な発表があり,参加者を楽しませていた.同日の目玉として,堤幸彦監督の招待講演が実施された.講演では,映画やドラマの制作におけるコンピュータ技術の使われ方が事例とともに紹介され,アナログ的な部分とCG等のデジタルの融合への挑戦や,今後AIを取り入れた映像作品にも挑戦したい意向も話された.監督のユーモアあるトークは聴講者を夢中にさせ,会場は笑いと温かさに包まれ拍手喝采であった. 3日目のインタラクティブ発表概要説明では威風凛々と研究紹介を行う発表者が多い中,HMDを装着して寸劇をしながら概要説明をする発表者も見られ,注目を浴びた.インタラクティブ発表ではどのデモンストレーションも賑わっていた.橋口らによる「温度錯覚を用いたVRコンテンツの検討」では,温度刺激を足裏に与えることによって,足が浸かっている水の温度の知覚が変化するデモを発表していた.一居らの「広い視聴範囲で美観を損ねずにモナリザ効果を排除できる二層式ディスプレイを用いた平面映像提示手法」では,二層のディスプレイを用いて画面上のキャラクタの目線を変化させるデモが披露され,このような技術的に工夫のあるデモが面白く注目を浴びた. なかには常に人が溢れ,体験の順番待ちとなるデモもあった.
インタラクション2019の公式サイトでは,予稿集やカタログ,一部発表の動画などを閲覧できるため是非参照していただきたい.次回開催は2020年3月9日(月)~11日(水)で,今年と同じ会場で開催される.機会があれば新しい可能性に出会えるインタラクション2020に参加される事を強く勧める.
筆者は過去2014年・2015年開催のときに一般デモデーやWomen’s Luncheonへ参加したことがあったが,インタラクションへの正式な参加は今回が初めてであった.デモやポスター発表における発表者との意見交換や新しい知見に対しての議論・フィードバックを心から楽しめた会議となった.インタラクション実行委員及びプログラム委員の方々に心から感謝すると共に,インタラションの研究分野での議論が今後も続き,このコミュニティが更に活性化する事を心から願う.
http://www.interaction-ipsj.org/2019/