TEI 2019 参加報告
中垣 拳(MIT Media Lab)
TUI(Tangible User Interface)および身体的インタフェースに関する学会,TEI2019が,アメリカ, アリゾナ州テンピで3月16-20日に開催された.三月のアリゾナは日本の初夏のような温暖な気候(27度前後)で, 文字通り’天日’な学会で, 雪が積もるボストンから参加した筆者にとっては楽園のようだった.13年目となった今回は,“Hybrid Material”が学会のテーマとして掲げられた.TEIは,口頭・デモ・ポスター発表のいずれも,一律のペーパーフォーマットおよび締切での投稿という珍しい形式を採用している.ペーパーフォーマットでは,36件の採択(採択率32%)があり,うち25件が口頭発表の形式をとっていた.ほかにも,Studios, Work in Progress, Art Track,Graduate Student Consortium,Student Design Challengeなどのプログラムが学会を盛り上げた.
筆者は,4度目の参加となるTEIであったが, 今回の特色としては, TUIの概念を特定のユーザのためにデザインされたインタフェースがいくつか見られたことが興味深かった.ベストペーパーを受賞した, メルボルン大学の’SpinalLog’は理学療法士をターゲットにした, 脊椎を模したタンジブルインタフェースによって, 細かな圧力のかかり方などをトラッキングし, トレーニングに利用することを提案し, 実際の療法士を交えたユーザスタディについて報告した.マイクロソフトリサーチからは, 視覚障害を持った子供向けに, プログラミングの原理が学べるタンジブルインタフェース’Torino’が発表され, ソフトからハードおよびUXまで完成度高く製品レベルにまでデザインされたシステムと, 定性的な評価についての報告を行い, 注目を集めた.またファブリケーション系の発表も増えていたように感じられた.自然から採取した木材を組み合わせた構造を作るためのファブリケーションパイプラインシステム’BranchConnect’(東京大学)や, 3Dプリンタにおける水に溶けるサポート材を一時的なデザインの要素に用いる提案’Sequential Support’(MIT CSAIL)など, 技術的なContributionがありながらも, デザインおよび体験面をいかにアップデートするかという議論を多く誘発するよう発表内容で, TEIらしさを引き出していた.また, 欧州系のデザインの文脈を部分的に汲むTEIでは, ‘サステナビリティ’が重要な価値の一つだと感じられる発表の数件あったのが印象的だった.例えば, 省エネルギーの誘発を主眼とした変形するディスプレイ装置’CairnForm'(Estia Recherche & LaBRI)や, ‘Decomposition as Design’という題でnon-anthropocentric(脱・人間中心的)なHCI研究・デザインのあり方を問う論文(インディアナ大学)はHonorable Mention Awardの一つに選ばれた.因みに筆者は, 力覚コントロールが可能なPin-based Shape Display’inFORCE’の発表を行い, 多様な触覚フィードバックの提示を可能にするデザインとアプリケーションについて登壇発表を行い, Honorable Mention Awardをいただいた.
まとめると, 今回のTEIは, Tangibleを軸にしながらも, 様々なテーマや価値観に取り組んだ研究が幅広く見られ, デザイン系の学会にありがちなフレームワークのみの提案に留まらずにプロトタイプの実装および実ユーザへアプローチした研究も多く, 筆者個人としては例年と比べて大変満足度の高い内容であった.また, 特筆すべきは, Art ExhibitionとPerformanceが現地の美術館(Tempe Center for the Arts)を貸し切って開催され, 例年よりも質の高い展示となっていたことで, 特にPerformanceはシアタールームを利用した本格的なダンス・演技・演奏などのテクノロジーを用いたパフォーマンスが1時間に渡って披露され, 他の学会に見ない大変興味深い内容となっていた.次回のTEI2020は, 2月9-12日にオーストラリアのシドニーで開催予定で, 初めての南半球での開催となる.